主要なシーシャのコンテストでは、独創的なフレーバーのブレンド(ミックス)が数多く生み出されてきました。ここ数年の日本・欧米・中東各地域の大会で入賞したミックスレシピとその特徴をまとめてご紹介します。それぞれのレシピには、使用タバコ銘柄や配合、使用機材、さらには審査員を唸らせたポイントが見られます。最後に地域ごとの傾向と最新トレンドも考察します。
まず国内のシーシャバーによる小規模コンテストも活発です。札幌のシーシャバーShe loves youでは毎年ミックスレシピのコンテストを開催し、上位入賞作は期間限定メニュー化されています。日本人はフルーツ系やお茶フレーバーを巧みに組み合わせる傾向があり、メロン×緑茶や柚子×ミントなど和のテイストを盛り込んだレシピも人気です(例:「抹茶ミントラテ」など)。実際、Fumari社のメロン・オレンジ・ミントを組み合わせたトリプルミックスは米国大会で優勝した有名レシピで、日本でも「伝説のミックス」として語り継がれています。このミックスはフマリの爽やかなメロンとオレンジに約8割ものミントを利かせており、ミント好きにはたまらない清涼感で支持を集めました。
目次
ヨーロッパ:ShishaMesseとフックバトルの競演
ヨーロッパではドイツの**ShishaMesse(シーシャメッセ)**が代表的なイベントで、フレーバーやブレンドのコンテストが行われます。2017年のシーシャメッセ・ベルリンではブレンド部門の1位にアルファーヘル(Al Fakher)の「Blue Razz Lemonade」と「Grapefruit Mint」を用いたミックスが輝きました。ブルーベリー系レモネードの甘酸っぱさにグレープフルーツミントの清涼感を合わせた配合で、フルーティーさと爽快感のバランスが評価されたようです。2019年の同メッセではフレーバー部門の1位がアルファーヘルのシンプルな「Mint(ミント)」に贈られており、ヨーロッパの愛好家にとってオーソドックスなミントが依然根強い人気を持つことを示しました。
一方、東欧・ロシア発祥のHookah Battleも欧州各地の展示会で開催され、ショーアップされたミックスが競われます。2023年のシーシャメッセ・フランクフルトでは、欧州各国から12チームが参加して「フックバトル・ヨーロッパカップ2023」が開催されました。優勝したポーランドのチーム「Krutoy Lounge」は独自のコンセプトと味で高評価を獲得し、2位スロバキア、3位スイスと続きました。具体的なレシピは非公開ながら、欧州勢はDarksideなど強めのタバコ葉を使った重厚なフレーバーや、紅茶・スパイス系を取り入れた大人びたミックスが好まれる傾向があります。また欧州では機材面の工夫も特徴的です。例えば2019年のフランス・パリ大会では、フルーツのグレープフルーツをくり抜いた即席ボウルでミント×シトラスのミックスを提供した例もあり、審査員に強い印象を残しました(※フルーツボウル使用は欧州の一部大会で見られる演出です)。総じてヨーロッパは伝統的なシンプルフレーバーの良さを押さえつつ、視覚的インパクトと新鮮な組み合わせで勝負するスタイルと言えるでしょう。
ロシア・CIS:強烈フレーバーと新興ブランド
ロシアを中心としたCIS諸国では、Hookah Battle本家の大会が長年開催されており、現地発の個性的なフレーバーが数多く受賞しています。2016年のフックバトル・ロシアではブレンド部門1位にDarkSide社の「Cherry Soda」が選ばれました。チェリーの甘味と炭酸飲料を思わせる独特の風味を持つフレーバーで、当時ダークサイドは強い煙と濃厚な味でシーンを席巻していたことを象徴する結果でした。2017年にはアルファーヘルの定番「Grape Mint(ブドウミント)」がフレーバー部門1位となり、伝統的なブドウ×ミントの組み合わせが根強い支持を集めました。
その後もロシアでは新興ブランドの台頭が目覚ましく、2018年には米国フマリ社の「White Peach(白桃)」が1位を獲得、翌2019年にはロシア産のMust Have社「Melon Gum」がフレーバー部門トップに輝きました。Melon Gumはメロンのジューシーさにガムの甘い香りを加えたユニークな風味で、「新世代の遊び心あるフレーバー」として評価されたようです。さらに2021年にはDermani Molasses社の「Peach Ginger Ale」という異色フレーバーが1位となりました。桃の甘みとジンジャーエールのスパイシーな炭酸感を併せ持つ味わいで、審査員から「これまでにない驚きのブレンド」と評されるなど高く評価されています。ロシア勢はとにかく煙の量とキック感(ニコチンの重さ)を重視する傾向があり、濃厚なダークリーフ系タバコ(高ニコチン葉)をベースに斬新なフレーバーを掛け合わせるのが特徴です。
機材面でも、ロシアのトップ層はMaklaudやHoobといったハイエンドの水パイプ、耐熱性に優れたファネル型ボウル、そして強火力に耐えるココナッツ炭など最高の組み合わせで挑んできます。実際、2021年ワールドカップ優勝者のRaiymbek氏も日頃からWookahやAlpha Hookah、Hoobといった高品質シーシャを愛用しており、機材選択にも妥協がありません。その結果生まれる濃密な煙と香りの層の深さが、ロシアならではのミックスの魅力となっています。
中東:伝統フレーバーと革新
中東のシーシャシーンでは、ダブルアップル(Two Apples)やミントといった伝統的フレーバーが今なお王者です。特にダブルアップルは「中東の水たばこ文化を象徴するフレーバー」と称されるほど定番で、甘い赤リンゴと酸味のある青リンゴにアニス(甘草)の香りが合わさった独特の味が愛されています。古くからあるAl FakherやNakhlaといったメーカーのTwo Applesは鉄板中の鉄板で、どのシーシャカフェにも必ずと言っていいほど置かれています。コンテストにおいても、中東では奇をてらったミックスより**「いかに定番を美味しく吸わせるか」**が重視される傾向が強く、過去のイベントでも最高評価がダブルアップル系に与えられた例があります(※中東地域では公式なミックス競技会は少ないものの、イベント内投票などでダブルアップルが常に上位に来ると言われます)。
もっとも近年は伝統フレーバーにもアレンジが加わっています。例えばドバイのある大会では、ダブルアップルにミントやレモンを少量ブレンドして爽快感を増したミックスが披露されました。老舗ブランド自身も変化を取り入れており、アルファーヘル社は定番Two Applesの派生版としてミント入りの「Two Apples Mint」やスパイスを加えたバリエーションを発売しています。とはいえ、多くの喫煙者はやはり昔ながらのダブルアップルの味を愛しており、「余計なアレンジをしないストレートな味が一番」という声も根強いのが実情です。中東のコンテストや評価会があれば、こうした伝統への敬意と安定感のある味づくりが高く評価されるでしょう。一方で葡萄系(グレープ)やローズ、ジャスミンなどのフローラル系も中東では人気があり、これらを組み合わせたエキゾチックなミックスが登場する可能性も十分あります。
アメリカ:独創的ミックスと強烈ミント
アメリカではHookah Battleの地域大会や、専門誌Smoke and Hookah Magazine主催の「Best of the Best」アワードなどでミックスが競われてきました。特徴として、複数メーカーのフレーバーを組み合わせる大胆なミックスが多い点が挙げられます。例えば2020年にテキサスで行われたフックバトルでは、Social Smoke社の強烈ミント「Absolute Zero」とFumari社の甘いデザート系「Blueberry Muffin」を半々でブレンドしたミックスが見事優勝しています。氷のような清涼感とブルーベリーマフィンの香ばしい甘さという異色の組み合わせながら、「意外な相性の良さでバランスが取れている」と高評価を得ました。アメリカの審査員は**“ミント+◯◯”**という配合を好む傾向があり、冷感と他の香りを組み合わせる発想が頻繁に見られます。
2019年の「Best of the Best」では、Trifecta社の超強力メンソール系フレーバー「Twice the Ice」とアルファーヘルの定番ミントのミックスが1位に選ばれています。こちらは強×強のミント合わせで、「とにかく圧倒的な清涼感が癖になる」と評されました。逆にフルーツ系では、フマリの「White Peach(白桃)」は単体でも人気が高く、2016年の同アワードで最優秀フレーバーに選ばれています。白桃のナチュラルな甘みは世界的にも評価が高く、米国でも他フレーバーとのミックスだけでなく単一でも愛好家が多いことを示しました。さらに2015年のフックバトル・カリフォルニア大会では、Fumariの「White Peach」とAlchemist Blend社のフローラル系「White Lotus」を組み合わせた上品なブレンドが優勝しています。桃のジューシーさに蓮の花のような華やかな香りを足したこのミックスは、「デザートのようにエレガント」と評価され、当時としては珍しいフローラル路線の成功例となりました。
米国の大会では機材・演出にもクリエイティビティが光ります。2019年のラスベガス開催フックバトルUSA杯で優勝したチーム「Hookah Villains」は、なんと**「石に刺さった剣」を模した特製シーシャ本体を製作し、そのデザインとプレゼンテーションで観客を沸かせました。彼らのミックス「Sword in the Stone」は詳細なフレーバー配合こそ非公開ですが、コンセプトに合わせて古風なカクテル“キューバリブレ”をイメージした味に仕上げたとされています(ラムコーラ風の甘さにシトラスとミントを加えたようなイメージとのこと)。このように、米国ではコンセプト重視の演出型ミックス**も登場し、審査員も味だけでなくストーリー性や見た目のインパクトに注目する傾向があります。
地域ごとの傾向と最新フレーバートレンド
以上のように、入賞レシピには地域ごとの特色が色濃く反映されています。中東はダブルアップルやミントなど伝統への信頼が厚く、奇抜さより安定感が好まれます。一方欧州は伝統と革新のバランス型で、ミントやレモンなど定番を軸にしつつも、新鋭ブランド(Darksideなど)の台頭で斬新な風味にも開放的です。ロシアはヘビースモーカー文化らしく濃厚で実験的なブレンドが多く、強いニコチン感や複雑なフレーバーノートを追求する傾向があります。アメリカはミントの活用術に長け、異なるブランド同士のコラボ的ミックスで意外性を狙うのが特徴です。日本は各国のトレンドを柔軟に取り入れつつ、緻密な味づくりで評価を得ています。
共通して言えるのは、「ミント系の爽快感」がどの地域でも好まれる傾向にあることです。ミント単体あるいは他のフルーツとの組み合わせは、多くの大会で上位に絡む鉄板要素でした。またピーチやブルーベリー、メロンといったジューシーなフルーツ系も人気が高く、これらをベースに清涼剤やスパイスをアクセントとしたレシピが各地で賞賛されています(例:White Peach系フレーバーの複数回の受賞)。一方、地域によってユニークな流行も見られます。ロシアでは「キュウリ味」「トマトスープ味」など一見奇抜な風味を巧みに取り入れる動きがあり、実際に2021年ワールドカップ優勝作ではガスパチョ(トマトスープ)風味をミックスに組み込む大胆さが光りました。欧米でもコーラ味やエナジードリンク味など飲料系フレーバーを用いたミックスが登場しています。
総じて、近年のフレーバーミックスのトレンドは**「クラシック×モダンの融合」**です。古典的な味をベースにしつつ、そこに新奇性を加えてアップデートしたレシピが高く評価される傾向にあります。審査員コメントを見ると、「馴染みあるフレーバーに意外な組み合わせで驚きを与えつつ、全体の調和が取れている」という点が受賞理由として頻出しています。今後も地域ごとの嗜好を反映しながら、斬新さと完成度を両立させたミックスが世界各地のコンテストで生まれていくことでしょう。シーシャ愛好家にとって、コンテスト入賞レシピはその時代のフレーバートレンドを映す鏡であり、次に試すべき一服のヒントとなっています。