VAPE用リキッド市場はこの10年で劇的に変化し、多くの有名ブランドが隆盛と衰退を経験しました。ここでは Five Pawns、Nicoticket、Halo といった代表的ブランドの成功要因と現在の状況を例に、業界全体の変遷(規制強化、競争激化、代替製品の台頭、新興メーカーの登場など)を詳細に分析します。
目次
Five Pawns:高級プレミアム路線の成功と試練
過去の成功要因: Five Pawns(米国)は2012年前後に創業し、チェスの駒にちなんだ「Castle Long」や「Gambit」など5つの複雑で高級感あるフレーバーを掲げ、「ラグジュアリーブランド」として急成長しました。30mlで27.50ドルと当時としては非常に高価格でしたが、洗練された味わいやガラス瓶・木箱入りの凝った包装が「コンノサー(愛好家)向け」と評され、味とブランド体験を重視する層の支持を獲得しました。特にバーボン風味の「Castle Long」やアップルパイ風味の「Gambit」などが人気を博し、雑誌レビューやコンテストで高評価を受けています。市場での評価: Five Pawnsはその職人志向の製法と複雑な風味設計で、「プレミアムリキッド」の代名詞的存在となりました。味の層を“五味”になぞらえたブランド哲学を持ち、2013年〜2015年頃には各種アワード受賞や専門フォーラムでの高評価が相次ぎます。当時はまだフレーバー種類も現在ほど多くなく、Five Pawnsのような独創的フレーバーを打ち出すブランドは希少だったため、高価格にも関わらず世界中の愛好家がこぞって購入する状況でした。
転機と試練: しかし2015年、Five Pawnsは風味付け成分に関するスキャンダルに直面します。同社が公開した検査結果で、一部リキッドに肺疾患リスクが指摘されるフレーバー成分(ジアセチルに類似したアセチルプロピオニル/AP)が高濃度で含まれることが判明し
、「安全性を誤魔化している」として消費者から集団訴訟を起こされました。Five Pawns自身は当初「ジアセチル不使用」を謳っていましたが、実際には類似物質のAPが含まれていたことが問題視されたのです。この件でブランドの信頼は揺らぎ、当時隆盛していたカスタード系リキッドのジアセチル論争とも相まって、ヘビーユーザーの間で敬遠される動きが出ました。
現在の状況: Five Pawnsはその後もブランドを維持し、新フレーバー展開や配合改良(可能な限り有害物質を除去)を行いました。依然として品質志向のファンは残りましたが、2016年以降は新興の安価な大型ボトル製品との競合や市場全体の価格下落で、往年のような突出した存在ではなくなりました。それでも独自の「Legacyコレクション」等で根強い人気を保っていました。しかし近年の規制強化が追い打ちをかけます。2020年9月の米国FDAによる販売認可(PMTA)期限以降、Five Pawnsはアメリカ国内市場からの撤退を余儀なくされ、2023年7月に自社サイトでの米国内販売終了を発表しました。公式声明では「FDAの行き過ぎた規制により米国市場での販売継続が不可能になった」ためとされ、法令順守のため全製品を米小売市場から撤去しています。現在Five Pawnsは海外市場での販売やOEM製造に活路を見出す姿勢で、「世界的に有名な自社フレーバーの製造は続ける」と表明しています。往年の栄光から一転、米国では規制に阻まれ撤退を余儀なくされたFive Pawnsですが、ブランド自体は存続し国外展開やタバコハームリダクション運動への関与など、新たな方向性を模索中です。
Nicoticket:コミュニティに愛されたカスタードリキッドの興隆と閉業
過去の成功要因: Nicoticket(米国)は2013年前後に登場し、小規模ながらオンライン中心に熱狂的ファンコミュニティを築いたブランドです。代表作のバニラカスタード風味「Custard’s Last Stand (CLS)」は「史上最高のカスタード系」と評判を呼び、フルーティー系の「Betelgeuse」や複雑なタバコ系の「The Virus(Wakonda)」なども愛好家の間で伝説的な人気を誇りました。NicoticketはE-Cigarette-ForumやRedditなどで顧客と積極的に交流し、徹底した顧客サービスと透明性で信頼を獲得した点が成功の鍵です。例えば風味成分の自主検査を行い結果を公開するなど、当時数少ない安全性への取り組みを行ったメーカーであり「Nicoticketは数少ない公開テストを実施したベンダーだ。検出される有害物質レベルも極めて低い」と評価されています。こうした真摯さと、「初回50%オフ」などリピーター獲得の巧みなマーケティング施策も奏功し、2014年にはユーザー投票の年間ベストリキッド賞を受賞するなど急成長しました。Nicoticketは創業からわずか数年で複数の国際的アワードを受賞し、コミュニティ主導型ブランドの成功例として語られます。
市場での評価: 小規模ながら「ハンドメイド・リザーブ品」を限定販売するなどファン心理を刺激する戦略で、Nicoticketはカルト的な支持を得ました。特にCLS(カスタード)は当時流行のカスタード系リキッドの中でも突出した存在で、専門誌レビューで絶賛され、熱心なファンが他の消費者へ口コミで拡散する現象も見られました。また経営者のClark氏自らフォーラムでユーザーと対話し要望を製品改良に反映させるなど、コミュニティとの一体感を重視した経営がブランドロイヤリティを高めました。
現在の状況: しかしNicoticketは2016年末に事業を終了しています。当時FDAのDeeming規制(電子タバコをタバコ製品に分類し販売許可を義務付けるルール)が施行され、小規模リキッド業者には数百万ドル規模の申請負担がのしかかりました。Nicoticketもその例にもれず、将来の規制コストと不透明さからビジネス継続を断念したとみられます。実際、創業者は「約3年半に及ぶ素晴らしいランを誇りに思う。我々の成功は紛れもなく皆さんのおかげだ」と述べ、2016年11月に在庫一掃セール後15,000本もの未販売リキッドを廃棄して閉店しました。閉業の直接の理由について公式には多くを語りませんでしたが、ちょうど2016~2017年当時は「多くのリキッドメーカーが今後次々閉業するだろう」と業界内で噂されており、事実2017年には同業他社の閉鎖が相次いだことから、規制強化への懸念と市場競争の激化が背景にあったと考えられます。Nicoticketは熱心なファンに支えられ急成長しましたが、大手資本を持たないインディーズ系ブランドとしては規制の波に抗しきれず、市場から姿を消しました。創業者は閉業に際し主要レシピの公開を示唆しつつ一部しか公開しなかったため、一部ファンから不満の声も出ましたが、それだけ**「伝説」として惜しまれつつ退場**したブランドと言えます。
Halo:老舗タバコフレーバーの堅実な戦略と進化
過去の成功要因: Halo(米国)は2009年創業のベテラン御三家的ブランドで、電子タバコ草創期から品質重視のリキッドを提供してきました。特にタバコ味とメンソール味に定評があり、代表作「Tribeca(トリベカ)」はリッチなRY4系タバコフレーバーとして世界的なベストセラーになりました。Haloは創業当初から米国製造にこだわり、徹底したクリーンルーム環境とロット番号管理、賞味期限表示を行うなど、当時まだ規制のなかった業界で先駆的に品質管理を導入しています。この姿勢が信頼を呼び、初心者から上級者まで幅広いユーザーに「安全で信頼できるブランド」として支持されました。また経営者が退役軍人であることから愛国心マーケティングも展開し、Made in USAの安心感を前面に出した戦略も奏功しました。2010年代前半は電子タバコ=タバコ味が主流だったため、Haloの提供する高品質なタバコ系リキッド(Tribeca以外にもPrime15やTurkish、Menthol系のSubZeroなど)は定番中の定番として世界中のショップで扱われる看板商品となりました。「タバコ味ならHalo」と言われるほどブランドが確立したのです。
市場での評価: Haloは2014年頃までに世界110か国以上で流通し、「世界一のタバコ・メンソールリキッドブランド」として知られるまでになりました。その10年間の実績はタバコ系フレーバー市場を事実上定義したとも評され、各種国際展示会やアワードでも常連の存在でした。フルーツやデザート系が流行し始めた2014年以降も、「Menthol X」などメンソール系や新フレーバー投入でトレンドに対応しつつ、主力のタバコ路線は崩さない堅実経営で生き残りを図りました。
現在の状況: Haloは厳しい規制時代においてもブランド存続に成功している数少ない老舗です。親会社のNicopure Labsは早くからFDA規制をにらみ、2016年にFDAを相手取って規制撤回を求める訴訟を起こすなど積極的に動きました(※この訴訟自体は棄却)。さらに数百万ドルを投じて主要フレーバーのPMTA(事前認可)申請を行い、2020年9月には看板商品の「Tribeca」(タバコ)、「SubZero」(メンソール)などの申請が正式受理され本格審査段階に入りました。タバコ味とメンソール味に特化した戦略が功を奏し、各州でフレーバー禁止が進む中でも「我々はタバコ味で勝負できる準備ができている」と自負しています。事実、米国では2020年以降フルーツやデザートなど甘い風味の製品販売が厳しく制限されつつあるため、Haloの伝統的なタバコ系リキッドは生き残りやすいポートフォリオと言えます。もっとも、規制対応コストから直販は縮小しており、2021年には米国内のオンライン直販を停止し代理店経由の販売に切り替えました。現在もHaloブランド自体は存続し、親会社は米欧に製造拠点を維持しているものの、ラインナップは規制に合わせタバコ・メンソール中心に整理されています
VAPE市場環境の変化:規制強化・競争激化・代替品の台頭
規制強化の影響
2010年代後半から世界各国で電子タバコ規制が急速に強化され、リキッド業界に大きな変革をもたらしました。米国では2016年のFDA Deeming規則によって電子タバコ製品がタバコ製品とみなされ、新規販売にはFDAの認可(PMTA取得)が必要となりました。この規則は猶予期間を経て2020年9月に適用され、多数の中小リキッド企業が高額な申請費用を捻出できず市場撤退を余儀なくされています。例えば米国初期からの大手Johnson Creek社(2008年創業)は2017年10月、「FDAの新指針は我々のような事業には過酷だ」と破産・閉業を表明しました。同社CFOはブログで「私たちは9年間支えてくれた顧客に感謝する。FDA規制の不合理さに警鐘を鳴らしてきたが、遂に閉業に追い込まれた」と謝意と無念を綴っています。事実Johnson Creekは「かつて全米最大級の独立系リキッドメーカー」でしたが、創業者がFDA規制の影響を警告してから数か月で倒産に至りました。
米国ではさらに2021年のPACT法改正により郵送によるニコチン製品販売が厳格化され、消費者がオンラインでリキッドを購入しづらくなるなど流通も制限されています。2020年以降FDAは何百万件ものPMTA申請を審査しましたが、2024年3月時点で認可を得たリキッド製品は僅か30件足らず(しかも大半がタバコ味)に過ぎません。この結果、現在米国で販売されているリキッド製品の98%近くは非認可(グレー)状態と推計され、市場は事実上「闇市」と化しているとの指摘もあります。Five Pawnsの撤退やSpace Jamの閉業(後述)など、名だたるブランドが米規制の前に姿を消したのが現状です。
欧州連合でも2016年施行のタバコ製品指令(TPD)により、ニコチン含有リキッドは10mlボトル・ニコチン濃度20mg/ml以下に制限されました。これにより従来主流だった30ml以上の大瓶リキッドはEU市場から消滅し、多くのメーカーがレシピやボトルサイズを変更する対応を強いられました。また各国で電子タバコの広告禁止や味の規制が進み、例えば2019年に米サンフランシスコ市がフレーバーリキッド全面禁止、2020年以降も米各州や他国で甘味フレーバー禁止が相次ぐなど(メントールやタバコ味のみ許可)、フレーバー規制は世界的潮流となりました。この結果、リキッド各社はタバコ味ラインナップの拡充やニコチン無し製品の開発、あるいは法規を逃れるための合成ニコチンへの切替(※2022年米国でこの抜け穴も規制)といった対応に追われています。
競争激化と市場成熟
一方、需要拡大とともに参入企業の激増も市場競争を過熱させました。研究によれば、2012~2014年にかけて毎月平均10の新ブランドと240種以上の新フレーバーが市場投入されており、オンライン調査で2014年時点で466ブランド・7,764種類ものユニークなフレーバーが確認されています。2013年頃には数十社程度だったリキッドメーカーが、2015年には世界中で数百社規模に膨れ上がった計算で、文字通り群雄割拠の戦国時代となりました。その結果、市場は味の多様化と価格の下落が進みます。Five PawnsやHaloのような従来の30mlガラス瓶・高価格路線だけでなく、プラスチック製大容量ボトル(60ml~120ml)で価格当たりの容量を増やした「コスパ重視型」ブランドも台頭しました。米国のMt Baker Vapor社(2011年創業)はその典型で、大容量かつ安価なカスタム調合リキッドを武器に一時期業界トップクラスの売上を誇りました。また中国やマレーシアなど低コスト生産国からも参入が相次ぎ、価格競争が熾烈化しました。Five Pawnsのような高級ブランドも市場拡大当初は希少性で優位に立てましたが、模倣や競合フレーバーが乱立すると徐々に差別化が難しくなりました。
競争激化に伴い、淘汰の波も訪れます。人気ブランドでも経営戦略を誤れば生き残れず、例えばSpace Jam(2012年創業、SF宇宙テーマのブランドで「Andromeda」などがヒット)はプレミア路線で一世を風靡しましたが、最終的に市場シェアを落とし2019年頃に生産終了・在庫処分となりました。同社は一時期ポッド型デバイス「The Byrd」への転換も試みましたが、オープンリキッド市場での存在感は薄れ撤退に至ったようです。他にも長年トップランナーだったCuttwood(2014年「Unicorn Milk」で有名)やSuicide Bunny(2013年「Mother’s Milk」でブーム)がかつてほど名前を聞かれなくなるなど、2015年前後にプレミアムリキッドブームを牽引したブランドの多くがその後伸び悩みました。一部はフレーバー安全性問題(ジアセチル検出による評判悪化)や経営者のスキャンダル等も影響していますが、本質的には市場の成熟化でトレンドが移ろい、ブランド興隆の寿命が短くなったことが大きいでしょう。
代替製品の台頭による市場構造の変化
2015年以降、従来のボトル入りリキッド+オープン型デバイスという製品形態自体に変化をもたらす代替的な製品カテゴリーが急成長しました。最も顕著なのが高濃度ニコチン塩を用いたポッド型デバイスの台頭です。米国で2015年に発売された「JUUL」はニコチン塩技術を採用し、小型ポッドに5%(50mg/ml)もの高濃度ニコチンリキッドを封入して登場しました。ニコチン塩は従来の遊離塩基ニコチンに比べて血中への吸収速度と量を飛躍的に高めるとされ、JUULは紙巻きタバコに近い強力なニコチンキックを実現しました。その結果、JUULはわずか数年で米電子タバコ市場の75%近くを席巻し、若年層を中心に空前のヒットとなります。このブームによって、従来型のオープンシステム用リキッド市場は新規ユーザー獲得の面で大打撃を受けました。かつては初心者もeGo電池+クリアロマイザ+ボトルリキッドという形でVAPEを始めていたものが、2017~2018年以降は手軽な使い捨てポッド(JUULなど)から入る人が激増したためです。リキッドメーカー各社も対抗してニコチン塩版リキッドを発売し、リフィル式ポッド向け市場に参入しましたが、デバイス一体型製品の勢いには及ばず、市場の主導権はポッド・使い捨てデバイス側に移りました。
さらに使い捨て(ディスポーザブル)型電子タバコの隆盛も挙げられます。2020年以降、使い捨てペン型に甘いフレーバー高濃度塩ニコチンを入れた製品(Puff Barなど)が世界的に流行し、市販紙巻きと同程度の手軽さで購入・使用できることから爆発的な普及を見せました。技術進歩により使い捨てデバイスの性能は飛躍的に向上し、2017年から2022年の間に「ニコチン含有量3倍・リキッド容量5倍・価格70%下落」という劇的な進化を遂げたとの調査もあります。この結果、多くのライトユーザーがボトルリキッド+充填の手間から離れ、簡便な使い捨てに流れています。こうしたトレンドは既存リキッドメーカーの売上を直接侵食し、特にコンビニ流通を重視していたブランド(例:米国のNaked 100など)は苦境に立たされました。
また、電子タバコ以外のニコチン代替製品も台頭しています。フィリップモリス社の加熱式タバコ「IQOS」は2014年に日本・イタリアで先行発売され、ニコチンリキッドが事実上販売禁止の日本市場を中心に驚異的成功を収めました。日本では2016年から2019年にかけてIQOSなど加熱式タバコ利用者が急増し、紙巻きタバコの販売本数がわずか7年で半減するという世界に例を見ない現象が起きています。背景には日本でニコチンリキッドが医薬品扱いで販売不可な一方、加熱式タバコが合法だったことがありますが、いずれにせよ喫煙者の選択肢が従来のVAPE以外にも広がった点は重要です。米国でもFDAは2020年にIQOSを「リスク低減タバコ製品(MRTP)」と認定し、2024年には国内展開再開の見通しとなるなど、今後リキッド市場にとって競合となる可能性があります。さらにニコチンを含まないCBDリキッドやTHCオイルといった大麻由来のヴェポライザー市場も伸長しており、一部のリキッドメーカーはCBDリキッド製造に転換する動きもみられます。
このように、規制強化と競争激化、そして新たな代替製品の登場によって、従来型リキッドブランドを取り巻く市場は大きく様変わりしました。生き残った老舗もあれば、新興勢力に取って代わられたブランド、市場そのものから消えたブランドもあります。次に、近年台頭した新興リキッドメーカーと業界の最新トレンドについて触れます。
新たなトレンドと台頭したリキッドメーカー
新フレーバートレンドとユーザー嗜好の変化
リキッド市場のトレンドも年々移り変わっています。2010年代前半はタバコ風味やメンソールが主流でしたが、中頃からデザート系・フルーツ系がブームとなり、「濃厚なカスタード」「シリアル(朝食)風味」「キャンディー風味」など斬新なフレーバーが次々登場しました。Five PawnsやNicoticketが人気を博した2013~2015年はちょうどクリーミー系やベーカリー系(カスタード、ケーキ、ドーナツ等)が流行した時期で、Suicide Bunny社のミルク系「Mother’s Milk」やCuttwood社のストロベリーカスタード「Unicorn Milk」などが一大ブームを起こしました。しかし2016年頃からはより強烈なフルーツや清涼剤(メンソール・クーラント)を利かせた南国系フレーバーが台頭し、例えばマレーシア産のリキッドは高い甘味と清涼感で世界的に人気となりました。ユーザー嗜好も大容量低ニコチン(3mg程度)で爆煙を楽しむクラウドチェイサー層と、高ニコチン塩でコンパクトに満足したい層とで二極化が進み、それぞれに合わせたリキッドが細分化しています。
台頭した主な新興リキッドメーカー
近年台頭したリキッドメーカーの中で、世界市場で成功を収めた例をいくつか挙げます。
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Dinner Lady(英) – 2016年創業。イギリス発のプレミアムブランドで、レモンメレンゲパイ風味の「Lemon Tart」が世界的ヒットとなりました。郷愁を誘うデザート味で支持を集め、創業からわずか数年で50以上の国際アワードを獲得
。現在は100種以上のフレーバー展開と使い捨てデバイス参入など多角化し、2023年には英国ベストVapeブランド賞を受賞するなど成長を続けています。
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Nasty Juice(マレーシア) – 2015年設立。東南アジアから登場し、エキゾチックなフルーツ×清涼剤ブレンドで急速に知名度を上げました。2016年に英国市場進出後わずか1年でトップクラスのシェアを獲得し、以降80か国以上に進出
。マンゴー風味「Cush Man」シリーズなどが人気で、2016年の英Vaper Expoで最優秀フルーツフレーバー賞・ベストブランディング賞を受賞するなどマーケティング戦略も光ります。現在ではショートフィルやニコチン塩、使い捨てペンまで幅広く展開し、年2000万本以上を生産する世界的ブランドに成長しました。
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その他の注目ブランド: 米国では2016年創業のNaked 100(南国フルーツブレンドで大ヒット)や、老舗メーカー出身者が興したCharlie’s Chalk Dust(独創的フレーバーライン「Pacha Mama」等で成功)などが台頭しました。カナダ発のTwelve Monkeys Vapor(フルーツミックス系)、フィリピン発のIllusions Vapor(独特なトロピカルフレーバー)など地域ごとの新星も現れています。これら新興勢力はSNSやイベントでの話題作りが上手く、短期間で国際的評価を得てブランド確立するケースが増えています。
業界再編と現在の潮流
市場成熟に伴い、業界の再編も進んでいます。大手たばこ会社による資本参入・買収も活発化し、Altria社は2018年にJUUL社株の35%を取得、Imperial Brands社はリキッド大手の一部を買収するなど、従来独立系が多かったVAPE業界にも寡占の波が押し寄せています。また生き残りを図るリキッドメーカーは、海外市場への活路を見出す傾向が顕著です。米国発ブランドがEUやアジアの展示会に積極出展し現地生産を始める例や、逆にアジア系ブランドが欧米に現地法人を構える例も増えました。規制を逃れて無 nicotineフレーバー濃縮液(シェイクアンドベイプ用)の販売に転じる企業や、DIYユーザー向けにレシピ公開・原料販売を行う動きもあります。Five Pawnsがアメリカ国外製造にシフトし存続を図っているのもその一例です。
さらに2020年代に入り、ニコチン代替製品や新技術との融合がトレンドになっています。例えば一部リキッドメーカーはニコチンの代わりにカフェインやビタミンを添加した「機能性ベープ」を打ち出したり、ポッド型デバイスとの提携で専用リキッドラインを展開したりしています。大手デバイスメーカー自らがリキッド部門を立ち上げるケース(SmokやVoopooの自社リキッドなど)も出てきました。フレーバー面ではメンソール系やたばこ系に再注目が集まっており、メンソール禁止の余波で清涼剤(WS-23等)を用いた清涼感演出が増えるなど、規制を潜り抜ける工夫も見られます。
総じて、VAPEリキッド業界はこの十年で勃興・拡大し、競争と淘汰を経て、新たな形態へと移行しつつあります。Five PawnsやNicoticket、Haloといった黎明期の名門ブランドの興亡は、そのまま業界の盛衰を映す鏡でした。かつて独創的フレーバーで名声を博したブランドも、生き残りには規制対応力や柔軟な戦略転換が不可欠となり、ある者は退場し、ある者は変革して現在に至っています。今後も規制動向や技術革新によって市場は変わり続けるでしょうが、「成人喫煙者により良い代替を提供する」という各ブランド共通のミッションは不変です